西村賢太『苦役列車』
西村 賢太さんの『苦役列車』は、半分以上は本人の私小説という印象でしたが、その通り、後に父親が性犯罪者であったことを多感な少年期に知り、そのせいもあってか中卒、家出、人足での日銭を稼ぐという自身の体験をベースにした生活を小説に紡ぎ芥川賞を受賞しました。
日雇い先で出会った日下部正二という専門学生との交流によって好転していくかのように見せて、それが上手くいかない。むしろ友情を自らぶち壊してしまう。劣等感、怠惰、憎悪、嫉妬など生きていく苦悩を、しかしユーモラスに描くのは著者自身が自分を達観して見て、笑いに変えられる特性があったからだと思いました。
私小説とは如何に自分を晒すかであり、それをなしたときに純文学というそうです。世渡りが巧みな人がいる分、当人に少しも悪意がないのに世渡り下手で損をするという処があります。所謂ダメ人間だが、憎めない。それが主人公の魅力です。
それにしても東大をでたから小説が書けるというものでもない。
特異な体験をしたから書けるというものでもない。人間というのは不思議です。
http://www.youtube.com/watch?v=nLL8X_0QC6Q&feature=related
西村賢太 芥川賞
「芥川賞を取っても、いいことがない」という個性はユニークですね。石原慎太郎さんなんて、物書きといいつつも芥川賞に実にプライドをもっています。一物二価、その環境と個性によって表現方法は様々です。