富坂聡著「中国という大難」
文庫本の新刊を読んだのですが、実は単行本は2007年に発売されたので6年前に書かれたものなんですね。
異臭を放つ大河、深刻な水不足。中国は繁栄の象徴として富を得ましたが、環境問題と汚職の蔓延に苦しめられる事にもなりました。1991年のソ連体制が潰れる2年前に行われた一般調査では「ソ連共産党が労働者の利益を代表している」と答えた人は7%、官僚や一部の幹部の利益を代表しているが85%だったそうです。
当然、中国共産党はソ連共産党をモデルにしているのでも共通点が多い。よって汚職の蔓延は中共にとって足下が崩れる前触れ。一罰百戒を狙って汚職で死刑が宣告されているケースもあるほどです。しかしどれだけ捕まえても次々に湧き出る白蟻状態。一旦、賄賂の誘惑に取り憑かれると真面目な官僚までもがリスクを犯してでも手に入れたいと思う。そんな腐敗官僚が海外へ逃亡しています。 まず子供を海外留学させ、現地で就職させて永住権を取らせ、次に母、そして家族と海外へ資産の持ち出しをする。そして最後に身一つで逃げるから「裸官」と呼ばれるそうです。
何故こんなに汚職が蔓延るのかというと官僚のポストは金にするとどれくらいの価値があるのかという「含金量」という隠語があって、当然、「含金量」の多いポストに就きたい官僚は熾烈なポスト争いをし、その結果、金が飛び交い人事を司る「組織部」が一番儲かる。その結果の人事は当然、恨み僻みが残る。そして、その金はどこからでるのかというと「うまく官僚に食い込み、その官僚を出世させて儲ける」=政商という構造になっています。
貧しい農村生活からの脱却を目指して日本にくる中国人妻、靖国問題にアメリカを巻き込む外交戦略。ここに書かれている問題は決して古くなく2007年から3年後の2010年に尖閣での衝突事件から、やっと日本人がリアルに感じ始めてきたという印象です。
そして文庫版で新たに追加されたあとがきには「複雑な背景と独自のカルチャーを背負った軍隊が時に共産党のシビリアンコントロールの枠を飛び越えて日本に襲いかかってきても不思議ではなく <中略>この危うさは換言すれば現場の判断で簡単に戦争を引き起こす事ができることを意味しているのだ」と書かれています。
これから世界の工場としてのポジションはベトナムやアフリカや北欧などにとられていくでしょう。経済発展が終わった後、残るのは諸問題です。そういった国内の不満を解消させる為に益々反日行動は高まる。
「中国という大難」というタイトルは中国におけるあらゆる問題は日本にダイレクトに降りかかってくる”日本の国内問題である”という事を意味しています。