「HERO」を読んで②
秦王・政(ジェン)は王家の地をひく子楚の子供とされていますが、実はその出生には秘密が隠されていました。
昔、呂不偉(りょふい)*偉の字ににんべんはない字なのですが、出ないのでこの字を使います。
という豪商がいました。彼は一介の商人としては破格の財を蓄えていました。そんなある日、彼は趙の国で乞食と見まがうほどのみすぼらしい身なりをした若者に会います。それが子楚でした。当時の中国は日本の戦国時代と同じで相手の国から人質をとるのが常套手段でした。そんな事から人質は同じ王位継承者でも順位の低い者がなりました。
しかし、一旦戦いが始まれば真っ先に始末されます。謂わば、子楚は見捨てられた存在でした。子楚は当時の新国王・昭王の孫でした。正式な王位継承権を持っていなかったせいもあり趙国は勿論、秦国の人間すら彼を相手にしませんでした。困窮と孤独から子祖は自暴自棄に陥っていました。「ただ、ひたすら殺されるのを待つだけの人生など、生きながらにして死んでいるようなものだ」と破れかぶれの状態だったのです。
そんな捨て鉢の様な思いで虚無な日々を送っていた子楚の前に現れたのが呂不偉でした。彼は、こう言いました。
「あなたは、このまま終わる人間ではない。いずれ大物になるだけの器量をお持った男である偉。いや、私が必ずそうしてみせる」