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<『小さな親友』という小説を投稿しました。⑤>

葬儀が終わり、石川の娘の由美と、友人夫婦の会話↓

「……二人とも有り難う」由美は、いった。
「ところでさ、気になっている事があるんだけど」
「何?」誠の言葉に由美は首を傾げた。
「小学校五、六年くらいの少年が普段着で葬儀に居たんだけど、心当たりないか」
「少年! 誠と理恵が香典を計算してくれていた時にね、親戚の人からも、そんな話が出ていたんだけど、全く心当たりがないの」

「そうか。実は、高校の同級生の加藤が少年が泣いていたところを見たと言うんだよ。後で声を掛けようとしたら、その時は姿が見えなかったって。でも、どうやら木陰に隠れていたらしくて、他にも数人が見かけているんだ」そう言うと、誠は胸ポケットから香典袋を差し出し、由美に渡した。
「多分、その少年が置いていった物だと思う」由美が中を開くと千円札が一枚入っていた。香典袋を裏返すと、子供の字で『ゆう太』と書いてあった。
「どうして、名前と住所書いて貰わなかったのよ」と理恵が誠を詰った。
「その時は、小父さんの友人の篠原さんが受付をしていたんだけど、ちょっと席を外している間に、受付に置いてあったらしいんだ」

「そうだったの……。きっと、お小遣いを包んだんだろうね」と由美が呟いた。
「あっ!」香典袋を、じっと見ていた理恵が突然声を上げた。
「思い出した。三時くらいだったかな。私が洗い物をしていたら電話が鳴って、ほら、確か由美が葬儀社の人と打ち合わせしている時」
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  由美は心を痛めます。葬儀のときに、豪雨だったので、傘のない少年はずぶ濡れで姿を消した事になります。由美は、父の最後の様子を知る少年だと思いました。

 一方、裕太は千円の香典しか出せなかった事を悔やみます。小父ちゃんとの約束で、大きくなったら旅行へ連れて行く約束をしていたのに、それが果たせなかった。しかも、香典千円、これでは義理が立たないと泣くのでした。

 無論、亡くなった親友の石川は、裕太の心の負担にならないように出世払いでよいとしたのですが、小学校6年の裕太には知るよしもありません。死んだら全てが終わりであり、一生義理が返せないとそればかりを悔やみます。

 そして、自分も死ねば小父ちゃんに逢えて謝罪できるのではと、思い出の川原を目指していました。そして、近づくにつれ、もしかすると小父ちゃんが

「裕太、待っていたぞ、死んでなんかいない。ここへ座れよ。どうだお握りでもたべるか」そういって、いつものように頭を撫でて胸に引き寄せてくれるにちがいないと、雨の中、ひたすら川をめざしていくのでした。

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