真のノーベル平和賞
栄えある受賞者の座席は空席で、傍らに本人の写真が飾られた光景は、中国の特異性を改めて世界に示すものだった。
今年のノーベル平和賞の授賞式が10日、ノルウェーのオスロで開かれた。
受賞した中国の反体制作家、劉暁波氏は、長年にわたって、非暴力の人権活動を中国内で展開してきた。その実績が認められての栄誉である。
劉氏は2年前、共産党の独裁体制の廃止などを呼びかけた「08憲章」を公表した。それがもとで国家政権転覆扇動罪に問われ、懲役11年の刑に服している。このため授賞式に出席できなかった。
劉氏への授賞は、世界第2の経済大国になる中国が、依然として基本的人権を軽視していることへの国際社会の警告でもあった。
ところが中国は、劉氏への授賞を体制転覆を狙う欧米社会からの挑戦だと受け止めた。夫人の劉霞さんを北京の自宅に軟禁し、劉氏の兄弟の出国までも禁止した。
平和賞の歴史の中で、本人だけでなく親族も授賞式に出席できなかったのは、1935年の受賞者であるナチス・ドイツ政権下の反体制活動家カール・オシエツキー氏以来のことだ。
時代は大きく変わったものの、全体主義体制の本質は変化していないことを、劉氏の授賞式は鮮明に物語っている。
中国は自国の台頭は脅威ではないとする「平和発展論」を強調する一方で、国内の民主派を弾圧し続けている。これでは責任ある大国の姿とは言えないだろう。
中国の胡錦濤政権は劉氏を直ちに釈放すべきである。
中国当局は劉氏の授賞式に参加しないよう各国に外交圧力さえかけた。大国主義を露わにした傲慢な態度と言わざるを得ない。
ロシア、ベトナム、キューバ、サウジアラビアなど約20か国が中国の要請を事実上受け入れ、欠席したという。極めて遺憾だ。
日本政府は劉氏への評価を「差し控える」と慎重だったが、大使を授賞式に出席させることで、人権尊重の姿勢は示した。
日中関係は、尖閣諸島沖漁船衝突事件を契機に冷え込んだ。一方で、双方の経済的な依存関係は一層深まる複雑な時期を迎えた。
良好な日中関係を維持していくためにも、人権問題の改善は必要だ。日中政府間で定期的に行われている人権対話で、日本は人権尊重や自由の保障を求めてきた。今後も粘り強く、中国に促していかなければならない。